前回の報告から、随分と日が経ってしまいました。
2024年の春は、群馬県のながめ余興場での発表会、母が入居している信愛苑でのひな祭りコンサート、所沢ミューズでの発表会、杉並能楽堂での杉並謡曲連盟の会への出演、
又、5月にはすっかり恒例でさせていただいている、小江戸蔵里での伝統和芸鑑賞会への出演、などなど・・・本来は、ひとつひとつご報告したいところです。
コロナ後の皆々様の復活を感じられる場に居合わせさせていただき、
ずっと理由のない不安に襲われていたのが、少しづつ回復、と同時にそれでもやはり何かが次の時代へと確実に移り変わっていくこともどこかで感じながら・・・の春でした。
言ってしまえば普段は時間の経つのなど忘れているのですが、ハタと気づけば還暦で、浦島太郎?
そんな気分です。
そしてそんな時に、傘寿を迎えられた加須市保寧寺の小崎無一和尚さんと、アルセSariさん、友政麻理子さん、そして私、一行四人で、スペイン、カミーノ・デ・サンティアゴへ、笛を携えての旅に出かけることと相成りました。(ちなみに加須市保寧寺にいつから出稽古に通っているか、記憶が定かではありませんが、2006年に初めて「友笛会」の名前でおさらい会をしています。)
カミーノ・デ・サンティアゴをご存知でしょうか。ローマ、エルサレムと並ぶヨーロッパカトリックの三大聖地のひとつ、サンティアゴ・デ・コンポステラ(大聖堂)を、ヨーロッパ中からめざす巡礼の道で、日本の熊野古道と同じ、世界遺産道となっています。オーソドックスなフランスの道、全部歩くと800kmに及ぶ行程です。今回の私達は、このフランスの道の最後の120kmを歩きます。
12年前の2012年に、和尚さんは同じくこのカミーノを歩いていらっしゃり、私がこの道の存在を知ったのもその時でした。同じ頃、私は「笛竹の集い」で、ギタリストの辻幹雄さんや、相馬の菅野啓明さん、四日市の原彰宏さん、ほか日本のあちらこちらから参加された横笛の愛好家の皆様と一緒に熊野本宮大社で奉納演奏をさせていただいておりました。
果たして、12年後の今年、熊野古道と姉妹道となっているカミーノ・デ・サンティアゴをよもや自分が歩くことになるとは当時は思いもしませんでした。これも何かのご縁かもしれません。
さて。
5月30日に成田を出発。
まずはスペイン・マドリードへ。
ここで二泊。美術の専門家でもある同行の友政さんご推薦の、プラド美術館や、ソフィア王妃芸術センター見学、そしてSariさんのご親戚と市場での会食。
宿泊先近くのサンイシドロ教会で、ミサに参加後、ここで今回初めての献笛を和尚さんと致しました。
祈りの場である教会での演奏に対する反響は素晴らしいものでした。
詳しくは和尚さんのブログをぜひお読みください。https://www.honeiji.jp/?p=3724
6月2日にマドリードからレオンへ列車で移動。お城のようなパラドールに宿泊したり、
現地の和尚さんのお友達である、アナさんご家族と、そのお友達の皆様から歓待を受けました。
アナさんとご家族には大変お世話になりました。
私達の大きなスーツケースはアナさんのお宅に預かっていただき、
6月4日、サリアのアルベルゲへ移動。
6月5日より、いよいよ巡礼の開始です。
ここ、サリアからサンティアゴ・デ・コンポステラまで、120Kmの巡礼路を
6日間かけて歩く計画です。
2月頃から時間をかけて細かな計画を練ってくれた、麻理子さんとSariさんには感謝しかありません。
が、実際に歩いてみると、計画の変更を余儀なくされる部分も出てきたり・・・
連日5時に起床。6~7時に歩き始めると、計算上は午前中にその日の行程20kmは消化できることになります。
実際には途中休憩したり、どこかで笛を吹いたり・・・なので、5時間ぶっ通しで歩いてしまうことはなく、それでも午後の早めの時間に次の宿へ到着できます。
宿は、同じ道を歩くいわば同志の集まりで、つかず離れず、しばらく行った先でまた再会する人もあり。
韓国の若者や、歩くのはベテラン風なおじさん、台湾のご夫婦や、フランスから来たご一行、そして現地スペインの方・・などなど、顔見知りもできます。
台湾のweney&Alanご夫妻と
行く先々の教会で、ミサに参加。和尚さんが献笛を申し出ると、たいてい快く演奏を許してくださいます。結果的には、各地の教会や、道の途中など、連日笛を吹かない日はないという毎日になりました。
中でも印象深かったのは、ミサでシスターのギター伴奏で讃美歌やいろいろな歌を歌っていた教会。
確か、アルスーアだったように思うのですが、偶然その日が司教さんの88歳のお誕生日!という日に居合わせて、そこで演奏させていただいたことです。
又、道々、教会のお庭で吹かせていただいた時もあり、同じように巡礼の道を歩いている皆さんに褒めていただいたこと。皆さん、忌憚のない感想をシェアしてくださること。
最後の大聖堂での演奏の後、声をかけてくださったのはリスボンのオーケストラのフルート奏者の方で、日本の笛の表現力を褒めていただいたこと・・・その表情にお世辞も嘘もなかったと信じています。
私達がサンティアゴ・デ・コンポステラへ到着したのは、6月10日のことでした。
今まで、海外での演奏は必ずいつどこで、というお約束があって出かけて行きましたので、今回のようないきあたりばったりの旅がどのようなものになるのか、始める前は想像もつきませんでしたが、和尚さんのお陰様で、私の人生の中でも、本当に稀有な体験をさせていただきました。
どれだけの方がどんな想いを持ってこの場に辿り着いたことか、と思うと、なんだかクラクラと眩暈がしそうな気がしましたが、何かとてつもないパワーをいただけたような、そんな気持ちも致します。
文字通り、有難いことでした。
今回の旅で、思い新たにしたことは、旅は誰とどんな目的で出かけるかによって、同じ場所へ行くのでもガラリと趣が変わってくるのではないかな、ということです。当たり前といえば当たり前ですが。今回、本当に良い旅をさせていただきました。
そしてこの旅にはまだおまけがあります。
実は私以外の三人はまだあと2週間旅を続けたのですが、私は単身、バルセロナ経由で一足先に帰国しました。
雨のバルセロナ、飛行機3時間遅れ・・でしたが、バルセロナで3組のスペインに縁ある日本の方とお会いしました。いずれも初めまして、な方々です。和尚さんのお知り合いでサグラダファミリアに詳しい山田朗子さん、ヒッポファミリークラブのご縁でお会いできた市川かすみさんとお母さまのれいこさん、そして酒井義人さんです。それぞれのご縁と、一日限りとはいえ快く現地で会っていただけたご親切に心から感謝申し上げます。
帰りはドーハ経由でまたまた飛行機が2時間遅れ・・・飛行機でゆっくり睡眠をとろうと思いきや・・でしたが、大きな問題もなく帰国できました。予定よりちょっと遅く、日付を越えて6月15日となっていました。